ΕΚ ΤΟΥ ΜΗ ΟΝΤΟΣ

熱い自分語り

【詩和訳】ハリール・ジブラーン『狂人』より「いかにして狂人になったか」

 今日訳したのは、The Madmanの冒頭を飾る作品'How I Became a Madman'です。順番適当に訳してるので、何でか三番目になってしまいました。気にしない気にしない。

 この作品では、表題にもなっている「狂人」がどのようにして生まれたのかが描かれてます。詩集全体に出てくるモチーフ、たとえばディスコミュニケーションとか孤独の尊重、みたいなものが前面に出てます。

 テクストは我らのProject Gutenberg Australia*1からです。サンキューオージー。

 

How I Became a Madman


You ask me how I became a madman. It happened thus: One day, long before many gods were born, I woke from a deep sleep and found all my masks were stolen,--the seven masks I have fashioned and worn in seven lives,--I ran maskless through the crowded streets shouting, “Thieves, thieves, the cursed thieves.”

Men and women laughed at me and some ran to their houses in fear of me.

And when I reached the market place, a youth standing on a house-top cried, “He is a madman.” I looked up to behold him; the sun kissed my own naked face for the first time. For the first time the sun kissed my own naked face and my soul was inflamed with love for the sun, and I wanted my masks no more. And as if in a trance I cried, “Blessed, blessed are the thieves who stole my masks.”

Thus I became a madman.

And I have found both freedom of loneliness and the safety from being understood, for those who understand us enslave something in us.

But let me not be too proud of my safety. Even a Thief in a jail is safe from another thief.

 

いかにして狂人になったか


 どういうわけで狂人になったのか知りたいのかね。そいつはこういう具合さ。ある日のこと、多くの神々が生を受けるよりもずっと前のことだ。深い眠りから眼を覚ますと、仮面が全部盗まれていた。俺は七つの仮面を仕立て、それを着けて七つの生を生きていたのだ。俺は仮面もなしに群衆の中を駆け回り、こう叫んだ。「盗人め、盗人め、忌々しい盗人め」

 男も女も俺を見て笑うし、中には俺が怖くて家に駆け篭った奴もいたよ。

 それでだ、市場につくと、ひとりの若者が屋根の上に立ってこう言ったのさ。「あいつは狂人だ」ってな。俺は顔を上げ、そいつを見ようとした。太陽が俺の素顔に口づけたのは、そのときが初めてだった。初めて太陽が俺の素顔に口づけたとき、この魂は太陽への愛に燃え上がり、そして俺はもう仮面を欲しなくなった。忘我の極みに達したかのように、俺はこう叫んだ。「幸い、我が仮面を盗みし者は幸い」と。

 こういうわけで狂人になったのさ。

 狂気の中には自由と安全が揃っていたよ。孤独という自由、理解されることからの安全がね。なんたって、人が俺を理解するとき、そいつは俺の中の何某かを奴隷にするのだから。

 しかし、この安全をあんまり誇るのはやめた方がいいかもしれん。牢の中の盗人でさえ、他の盗人からは安全なのだからね。