ΕΚ ΤΟΥ ΜΗ ΟΝΤΟΣ

熱い自分語り

【歌詞和訳つき】『ブレードランナー 2049』と"One For My Baby (And One More For The Road)"

 名高き『ブレードランナー』を観たのは何年も前のこと、大学図書館でのことだった。そこまで悪くはなかったけれど、自分にとってあまり響く作品ではなかった。当時は革新的だった世界観も、多くのエピゴーネンに触れていた自分にとっては、単なる歴史的遺物にしか思えなかったし、何よりも、主人公のデッカードにまったく感情移入できなかった。同じリドリー・スコットなら、『エイリアン』の方がずっと好きだな。そう思って終わった気がする。だから、気鋭のヴィルヌーヴが『ブレードランナー』の続編を撮ると決まり、映画界隈SF界隈が賛否両論で大騒ぎしていたときも、俺はそれを他人事のように眺めていた。そして封が切られても、結局映画館には行かなかった。今になってそれを後悔している。
ブレードランナー 2049』について語りたいことは沢山あるけれども、とりあえず今は、この ”One for my baby” に巡り合わせてくれたことを感謝するにとどめよう。まさかブレードランナーを観に行って、シナトラを教わるとは思わなかった。

 

 この曲はもともと1943年の『青空に踊る』(The Sky's the Limit)というミュージカル映画のために書き下ろされたものらしい。主演はもちろんフレッド・アステア。スタンダード・ナンバーと呼ばれるものは、起源をたどると大体アステアにたどり着く、なんて言ったら大げさだろうか。
 この曲のお披露目はなかなか強烈で、アステアはマスターに愚痴りつつ、おもむろにカウンターに立って踊りだし、最後には店を破壊し始める。アステアが映画で演じるのは大体のところ踊れるDQN。なのでこの所業にも驚きはない。ただ、儚く悲しい歌詞と、アステアのパフォーマンスはあまり噛み合ってないようだった。まあ、この場合、悪いのはアステアではなく、監督とか方なのだが。とにかく、初のお披露目の時点では、この曲の真価は発揮されていなかったように思える。
 そして、この曲に不朽の価値を与えたのは、他でもない、シナトラだった。

 

 Kががジュークボックスに硬貨を入れる。シナトラが現れ、この曲を歌い、そしてレイチェルが映し出される。完璧なシーンだ。映画と曲とが、深く深く呼応している。でも、両者のどこが対応しているか、俺はなかなか見抜けなかった。この映画を最初観たとき、”One for my baby” の “I” はKのことだと思っていた。事件が進んでいく中で、最愛の「彼女」を喪う彼は、言うまでもなく、作中の誰よりも孤独だ。しかし、ここが重要なのだが、彼は畢竟は「ジョー」なのである。そう、”One for my baby” の “I” は、Kでなくデッカードのことなのだ。愛するレイチェルを喪い、愛する娘を失い、自暴自棄になって世を捨てたデッカードを、Kは懸命に導く。その関係性が、グダを巻く ”I” と、それに付き合う “Joe” に重ね合わされているのだ。そう、Kは結局 “Joe” に過ぎず、この曲の主人公ではない。そんな彼を、この映画は主人公に選んだ。だから、俺はこの映画が好きなんだ。

 

続きを読む

【歌詞和訳】Miss Annabelle Lee

 恋に浮かれて浮かれまくった男の舞い上がりっぷりがこれでもかと表現された曲。戦前に作詞作曲されたとは思えないくらいチャラチャラしてます。この "I" とやらは件のかわいこちゃんをホントにモノに出来てるんでしょうかね。適当に遊ばれてカモられてるだけなのでは。まあ、それはそれで幸福な経験だったりするんでしょうが。

 ちなみに、件のかわいこちゃんの名前はアナベル・リー。かの詩人ポーの傑作に由来しているんでしょうねえ。洒落てんなあ。あ、でも、あのアナベル・リーは最後は死んじゃったんでしたっけ。ううむ。

But our love it was stronger by far than the love
Of those who were older than we—
Of many far wiser than we—
And neither the angels in Heaven above
Nor the demons down under the sea,
Can ever dissever my soul from the soul
Of the beautiful Annabel Lee 

  なんつって。

 

続きを読む

【歌詞和訳】I'll See You in My Dreams

 最近は仕事の夢を見ることが多かったけれど、気合を入れてうつくしい音楽をたくさん摂取するようにしたら、見違えるようにいい夢を見れるようになりました。こんないい曲を聴いた日にゃ、とびきりの美人の夢が見れそうです。

 

続きを読む

【歌詞和訳】Yellow Magic Orchestra / CITIZENS OF SCIENCE

 YMOの大傑作アルバム『増殖』に収められた一曲。イカした曲作ってんじゃねえかよお、お前らよお。作詞は初期YMOの言語世界を支えた詩人クリス・モスデル。この歌詞がですねえ、むちゃくちゃ難しかった。とりあえず日本語に置き換えたはいいものの、何を言ってんのか全然わかんないの。たぶんまあ現代社会とか科学文明に対するある種の批評なんだろうなあとは思うのだけれど、そう装ったナンセンス詩かもしれないし、考えれば考えるほどドツボにはまるんすよ。もしかしたら、それが狙いなのかもしれん。こわいこわい。

 歌詞の途中のカギカッコでくくってるところは、実際にクリス・モスデル御本人が歌って(?)らっしゃいます。たぶん、後にも先にもこれっきり。なかなか尖ったいい声してらっしゃいます。

 とまあ、いろいろと書きたいことは山ほどあるのですが、残念ながらこの曲の話はここらで打ち止めです。マンションの一室に麻薬現行犯が潜伏しているという連絡が入ったので、これから逮捕に向かうのです。よーしここだな。警察だ!!!!!!麻薬現行犯で逮捕する!!!!!!!!!!!!!!!!!開けろ!!!!!!!!!!!!!!

 ――あ、だだだ、だぁれぇ~?

 

続きを読む

【歌詞和訳】Jody Watley / Your Love Keeps Working On Me

 こないだ定食屋で飯食ってたらFMでメチャクチャ最高な曲が流れてきて、なんじゃこりゃと思って急いで調べたのがこの曲です。一途で熱くてそこはかとなくエロティック。いかにも90sなサウンドが、いま聞くとすごく新鮮ですね。

 歌詞は結構意訳してます。"I don't know what you do to me" はそのまま訳したらまあそのままなんですが、「どんな魔法を使ったの?」みたいな感じで訳してみました。意味合いはおんなじ、のはず。あと、”work on” は「~に有効である、影響する、効果を発揮する」みたいな感じらしいので、自分に有効である、効果を発揮するってので、もうちっと意味を汲み取って、~があるから自分は頑張れるー、みたいに訳してみました。

 

続きを読む

【歌詞和訳】Yellow Magic Orchestra / SIMOON

 Yellow Magic Orchestraがデビュー・アルバム「Yellow Magic Orchestra」を世に出したのが、いまから40年前の1978年のことでした。そこに収められた作品群は、誇張でも何でもなく、未だに未来の音たり得ています。きっと今から100年後も、これらの楽曲はリスナーに未来を届け続けるのでしょう。

 今回はこの「Yellow Magic Orchestra」の中から、大好きなSIMOONを訳してみました。細野晴臣すっきゃねん。これに先立つ南洋三部作や、高橋幸宏の「サラヴァ!」に収められたMood Indigoなどで積み重ねてきたものが、うつくしく結晶したような楽曲だと思います。そして、そんな楽曲に捧げられたChris Mosdellの歌詞がまた素晴らしいんスよ。ここで一応日本語にしてはみましたが、ぜひ皆さん、英語辞典を引きながら原詩を味わってみてくだせえ。

 

続きを読む

【歌詞和訳】Patti LaBelle / If You Asked Me To(『007 消されたライセンス』EDテーマ)

 1989年公開の映画『007 消されたライセンス』は、シリーズでもかなり異色の作品でした。ボンドの親友であるフェリックス・ライターが麻薬王に襲撃され、彼の花嫁が殺され、フェリックス自身も大怪我を負う。ボンドはMI6からの指令でなく、自身の意志で彼の復讐を目論む、という内容で、はっきりいってかなり陰惨です。007ではグロ表現とかはあんまり使われてないのですが、この映画では人間の頭が破裂したりなんだりと、かなりエグいシーンをバンバン使っています。映画としてはそれなりに面白くて好きなんですけど、他の007作品と違って、観てると気分が落ち込んでしまうんですよね。でも、最後の最後に復讐を果たし、映画がハッピーエンドを迎えた後、この美しい歌が流れるんです。それですべて許せちゃうのねん。

 一途に相手を思いつづける美しい歌詞と、甘い旋律、そしてもっと甘いパティ・ラベルの歌声に、聴いてるこっちはもうとろけっぱなしです。一見、単なる惚気みたいな歌詞ですが、ウィキペディアによると、この曲のMVの撮影前に、パティ・ラベルのお姉さんが亡くなってるらしいんですね。それで、MVではパティ・ラベルが黒い服に身を包み、沈痛な面持ちで「あなたが頼んでくれたら、自分は何だってする」と訴えてるんですよね。それを踏まえた上で歌詞を読み返すと、本当に痛切な歌だなあと実感させられます。

 ちなみにこの曲、パティ・ラベルのバージョンもそれなりにヒットしたのですが、後年セリーヌ・ディオンがカバーしたバージョンが大ヒットしたそうです。今回調べるまで知らんかった。セリーヌ・ディオンつったらあれでしょ、エディオンのCMに出てた人でしょ。俺が大学生の時、友だちの家に四人集まって夜通しジンギスカンを喰う会をしてたのですが、みんなで肉くいながらテレビを見てたら、いきなりセリーヌ・ディオンが歌いだして、なんじゃこれはと場が騒然としたのを今でも覚えています。いや、でも、セリーヌ・ディオンのバージョンもすごくいいですよ。はい。大丈夫ですよ。

 

続きを読む